銀杏の落葉の舞う診療所前の歩道で、懐かしい女性に出会った。黒い大きな鞄を右の手に携えていた。
「その重たそうなかばんの中には何がはいっているんですか?」「この中には楽譜がぎっしり詰まっているんです。それが私の命なんです。」
その人は、大好きなシャンソンで身をたてることを志していた。が、かなわず、シャンソン居酒屋を開き生計を立てていた。
それでも、年一回は小さなリサイタルをしながら努力を続けている。大きな夢をかなえる日をめざして。
なかなか治りにくい病気もある。それでも、いつか完治する日のくることを念じて、努力を続ける人を尊いと私は思う。あきらめず努力する姿は、だれが見ても美しい。
(PC版「随筆その10枯れ葉の歩道」より抜粋)